萩原葉子『天上の花』・結核撲滅以前のころ

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詩人・萩原朔太郎の長女である萩原葉子が書いた、詩人の三好達治との思い出を中心とした私小説的作品です。

詩人としての地位を築きあげた朔太郎は、家族とともに上京し神田に住み始め、室生犀星や芥川龍之介・宇野千代といった作家たちとさかんに交流します。そして三好達治や『檸檬』で有名な梶井基次郎などの若い文学青年たちも、書生としてひんぱんに家に出入りするようになりました。
そんなある日の梶井が恐ろしい

 

「或る日、梶井氏は洗面器の中へ赤い血を吐いた。玄関の左側の台所の脇に血は吐いてあった。母は大声で二階の父を呼び、三好さんも降りてきて、ごたごたした。
私は、赤い血の入った金盥(かなだらい)が怖かった。それからは梶井氏は、家に来るとたいてい喀血した。ガラスの瓶の中に血が入っていることもあったり、真っ赤なものが金盥に入ったままになっていることもあった。」(引用)

 

・・・すごく迷惑な客人。この頃葉子はまだ小学校に入る前の子供で、うつってたら大変だ。
結核は1950年頃までずっと死因の第1位で、昭和初期には身近によくある病気でした。
梶井はこの書生時代から5~6年後の31才で亡くなってしまうのですが、10代から肺結核を発症していたのにタバコやお酒も好んでたとの話もあり、あまり同情できません。
同じく朔太郎の書生だった堀辰雄が結核になったのは、梶井のが移ったのではないかと思ったり。でも、堀の代表作『風立ちぬ』は結核診療所(サナトリウム)に行かなければ書かれることはなかったので、結果オーライなのかな?

『天上の花』での三好はその後、長い間恋心を抱いていた朔太郎の妹と結婚し疎開するのですが、妻視線で書かれた三好がこれまた恐ろしい。ふたりの性格や価値観の違いなど理由はあるものの、三好が家庭内暴力の限りを尽くします。DVの描写がとてもリアルなので、目の前で見ているような気分になります。
後半では、葉子が作家としてスタートを切ると、基本的にはとてもよく面倒をみてくれるいいおじさんです。同じ人が相手によってこんなに変わるものなのかと、ギャップに驚きました。

登場するのは個性豊かな人ばかりで、昭和初期の雰囲気もよくわかり、あとがきも含めとてもいい文章の名著でした。

[おまけ]
作中で朔太郎の妹・慶子(本名はアイさん)は、道を歩けば誰もが目を奪われ良い縁談はひっきりなし、耽美派の文豪谷崎潤一郎は今の奥さんと離縁し結婚する話を真剣に考えた・・・というほどの美女と書かれています。
本当にそんな人がいるのか!?と画像を探したところ、女優の原節子さんや大正期のビールのポスターガールのような、本物の美人でした。ここまで美しいと、一般人とは違う価値観と人生になってしまうのも納得。

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