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映画『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』で人生の思い出摘み

映像が綺麗で、内容はあんまり重くなくて、でもそこそこ見ごたえのある映画ないかな~と店頭で探していてみつけたのが、この『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』でした。
アカデミー賞受賞の『恋に落ちたシェイクスピア』の監督と女優さんをはじめとして、イギリスを代表するような名優たちが勢ぞろい。
映画の舞台はインドなんですが、ホテルのインド人オーナー役は『スラムドッグ$ミリオネラ』で主役を演じたデーヴ・パテール氏だったりと、どこかで見たことある気がする役者さんばかりで、やはり演技も上手。

イギリス人用グループホーム・マリーゴールドホテルに移動する7人が集まったところから物語は始まります。
日本人でも、物価が安い海外老人ホームに入居している人がいるとドキュメンタリー番組でやっていましたが、トラブルが起こった時は言葉が通じなくて大変みたいです。
イギリス人なら英語が話せるから安心かな~と思いきや、マリーゴールドホテルは事前の説明とは全然違ってオンボロ…
それでもインドライフに少しずつ慣れていき、それぞれが人生に置いてきた色々な思いを溶かしていきます。

マリーゴールド

 

とにかく、インド・ジャイプールの街や市場の色彩の強さに圧倒されます。
ホテルのインテリアや女性の衣装もカラフルで、見ているだけでリゾート気分が味わえました。
ストーリーもメリハリがあり、笑える部分としんみりするシーンが混じりつつも最後は前向きな終わり方なので、悲しい映画がニガテな人でも安心して見られます。
若いインド人カップルの恋愛ドラマもあるので、年配の人だけでなく若い人も十分楽しめるのではないかと。

ただ個人的な好みですが、細かいエピソードではどうもイギリス人の感性と合わないな~とモヤモヤするところもいくつか。
具体的には、恋愛感情の描き方とか、他人を傷つけてもさらっと流れていつのまにか許されているところとかです。
有名な『英国王のスピーチ』や『ラブアクチュアリー』『ブリジットジョーンズの日記』など、イギリス人スタッフが作った映画の多くでそういう細部で感情移入できないことがありました。
まあ、気にならない人のほうが大多数みたいですし、リアルかどうかなんて深く考えずに観るならいい映画ですね。
年をとったら…というよりも、今からでも後悔しないように生きていきたいなぁと改めて思い直します。
アメリカではけっこう人気が出たようで、2015年には続編の公開も決まっているそうです。

萩原葉子『天上の花』・結核撲滅以前のころ

詩人・萩原朔太郎の長女である萩原葉子が書いた、詩人の三好達治との思い出を中心とした私小説的作品です。

詩人としての地位を築きあげた朔太郎は、家族とともに上京し神田に住み始め、室生犀星や芥川龍之介・宇野千代といった作家たちとさかんに交流します。そして三好達治や『檸檬』で有名な梶井基次郎などの若い文学青年たちも、書生としてひんぱんに家に出入りするようになりました。
そんなある日の梶井が恐ろしい

 

「或る日、梶井氏は洗面器の中へ赤い血を吐いた。玄関の左側の台所の脇に血は吐いてあった。母は大声で二階の父を呼び、三好さんも降りてきて、ごたごたした。
私は、赤い血の入った金盥(かなだらい)が怖かった。それからは梶井氏は、家に来るとたいてい喀血した。ガラスの瓶の中に血が入っていることもあったり、真っ赤なものが金盥に入ったままになっていることもあった。」(引用)

 

・・・すごく迷惑な客人。この頃葉子はまだ小学校に入る前の子供で、うつってたら大変だ。
結核は1950年頃までずっと死因の第1位で、昭和初期には身近によくある病気でした。
梶井はこの書生時代から5~6年後の31才で亡くなってしまうのですが、10代から肺結核を発症していたのにタバコやお酒も好んでたとの話もあり、あまり同情できません。
同じく朔太郎の書生だった堀辰雄が結核になったのは、梶井のが移ったのではないかと思ったり。でも、堀の代表作『風立ちぬ』は結核診療所(サナトリウム)に行かなければ書かれることはなかったので、結果オーライなのかな?

『天上の花』での三好はその後、長い間恋心を抱いていた朔太郎の妹と結婚し疎開するのですが、妻視線で書かれた三好がこれまた恐ろしい。ふたりの性格や価値観の違いなど理由はあるものの、三好が家庭内暴力の限りを尽くします。DVの描写がとてもリアルなので、目の前で見ているような気分になります。
後半では、葉子が作家としてスタートを切ると、基本的にはとてもよく面倒をみてくれるいいおじさんです。同じ人が相手によってこんなに変わるものなのかと、ギャップに驚きました。

登場するのは個性豊かな人ばかりで、昭和初期の雰囲気もよくわかり、あとがきも含めとてもいい文章の名著でした。

[おまけ]
作中で朔太郎の妹・慶子(本名はアイさん)は、道を歩けば誰もが目を奪われ良い縁談はひっきりなし、耽美派の文豪谷崎潤一郎は今の奥さんと離縁し結婚する話を真剣に考えた・・・というほどの美女と書かれています。
本当にそんな人がいるのか!?と画像を探したところ、女優の原節子さんや大正期のビールのポスターガールのような、本物の美人でした。ここまで美しいと、一般人とは違う価値観と人生になってしまうのも納得。

漫画『信長のシェフ』 ・料理と健康についての食育におすすめ

『信長のシェフ』の感想レビューです。テレビドラマにもなっていて、かなり有名な作品ですね。
戦国時代にタイムスリップし記憶喪失になった主人公・ケンが、織田信長に料理係として仕えて生き延びるという内容の漫画です。
ケンは自分の過去は思い出せませんが料理の作り方は体で覚えていて、食材の扱い方や調理方法は記憶をたどることができます。
物の流通も調理器具も満足にない時代ですが、ケンは信長や有名な武将たちを驚かす料理を次々に生み出し、歴史の流れにも大きく関わっていきます。

歴史ものの漫画でここまでリアルに料理を描いているものはないので、読むたびに新たな発見があります。
たとえば、食材のひとつひとつに体を整える作用があるというのはあたりまえのことなんですが、材料の調達が簡単になり便利なインスタント食品もある現代では忘れてしまいがちなことです。
食事とはそもそも、「体内に栄養を入れる」ということでした。おいしいと感じることや、食べて満足するとかは全てそのためです。
味が良いということは結果であって目的ではありませんでした。食糧事情の悪い時代には、とにかく栄養素が摂れればなんでも食べたことでしょう。
現代では「エネルギーや栄養素のない食べ物」が消費者に求められているという不可思議な現象が起きています。

囲炉裏風の鍋料理

身近な例で言うと、エキス抽出をして作られた即席だしですね。
かつおぶしや椎茸でしっかりと出汁をとって作ったお味噌汁がおいしいのは、素材の栄養エキスが溶け込んでいるからなんです。
今では豚骨ラーメンを作る際、コトコトと長時間豚骨を煮込まなくても油や化学調味料を混ぜて表面的には似たような味が作れます。
私も面倒なときは冷凍やインスタント食品で食事を済ませることがあるので良し悪しを言える立場ではないけれど、きちんとした食事のほうが栄養価があることは知っておくべきです。


昨年放映されたドラマ版は観てないので漫画とストーリーが同じなのか知りませんが、最新刊の8巻ではさらに気づかされることがありました。
それは、「食べる」ということは薬にも毒にもなるということ。
フグ肝のように味が良くても体に悪いものはあります。苦いのに体調を整えてくれる植物もあります。
今でこそ毒キノコの分類がされていますが、それも昔の人が食べて健康被害があったからわかったことですね。
そういった経験則から「体を整える食べ物」という栄養学が確立されたのか~と実感しました。
普段食べている物のひとつひとつが体を作っていると意識するようになったのは自分で料理するようになってからですが、10代のころから知っていて心がけていれば良かったな~と思います。

『信長のシェフ』は、そういった食育が自然な形で理解できるのでためになります。
絵柄に癖がないし日本史に詳しくなくてもテンポ良く読めるので、万人におすすめできる漫画です。

映画『カリーナの林檎~チェルノブイリの森から~』を観た感想

ベラルーシの綺麗な自然と主人公カリーナのピュアさが際立つ、ていねいに作られた映画です。
プリピャチという小さな村は、今でも運搬には荷馬車を使い井戸水を飲み、鶏や山羊を飼って…という農家が多い地域。
都会に住むカリーナはその村に住むおばあちゃんが大好きで、2人でのびのびとした夏休みを過ごしています。

あえて全体の色の鮮やかさを抑えていて、服やスカーフのピンク・空と壁の水色がアクセントとなり、幻想的な映像美です。
庭にある林檎をもいだりんごや、カリーナの実(赤スグリっぽい)もジューシーでおいしそう。

そんな日常風景ですが、実はチェルノブイリの隣の村で…という話です。
カリーナ役の女の子がとにかくかわいいし、表情やちょっとした動きの演技も上手。
色使いやインテリアのセンスがすごく良くて、参考になります。北欧やヨーロッパのオシャレ映画好きの人にも良さそう。
見終わってから日本人の監督が撮ったと知って、とても意外でした。

子供でもわかりやすい話だし、この映画に何かしらの興味を持った人なら観て損はないと思います。

水に浮かんだリンゴ

 ↓ここから下にはネタバレがあるので、見終わってから読むことをおすすめします。

このごろは映画の内容を楽しむために、観る前にはあまり情報を入れないようにしています。
レンタル屋さんで選ぶ時も、タイトルとパッケージにある写真を軽く見る程度で説明をじっくり読まないようにしているんですが、この方式だと内容を勘違いしたまま見てしまうこともあると知りました。
というのも、この『カリーナの林檎』をなぜか私は「色々な試練があるけど、少女は全てを受け入れ成長していく話」だと思い込んでいたのです。
大きな思い違いですが、洋画コーナーに並んでいるピンクのパッケージ&ほっこりムービー風の映像写真なので、ハッピーエンドまではいかなくても現実的な終わり方なのだと…

そのため、終盤でカリーナが甲状腺の病気を発症したあたりで「結局、子供の純真さを前面に出して同情をひく映画か」と少し冷めた視点になってしまいました。
原発事故や放射性物質はもちろんあってはいけないですが、フィクションでも最低限のリアリティ内で描いてほしいかなと。
一度そういう風に思ってしまったら、だんだんと違和感の多いストーリー展開が気になりだします。

伯母は放射性物質の危険性を知っているはずなのに、カリーナを原発近くのおばあちゃんの家に滞在させ食事をさせておいて「なんで病気になったの」と泣き崩れています。
カリーナはおばあちゃんの家から持ってきた小石を宝物にしていて、がんで瀕死の母の手に握らせたり、闘病中の友達にプレゼントしたりと、知らないとはいえ残酷なふるまい。
おばあちゃんは神に祈ればどうにかなるとばかり言っていて、いくらなんでもベラルーシの人をバカにしているような…
さらに、フィクションであることを思い出させるようなラストにも冷めてしまいました。


…そんな感じでモヤモヤとした感想だったのですが、この映画が今関あきよし監督の発案による自主制作映画であることと、撮られたのが福島事故前の2003年だと知って印象はガラっと変わりました。
10年前に完成していた大元の『少女カリーナに捧ぐ』は、日本ではチェルノブイリ事故への関心の薄さから上映されていなかった(監督の不祥事の影響でベラルーシでのロードショー予定も中止)のですが、再編集して2011年末に『カリーナの林檎~チェルノブイリの森から~』と改題され劇場公開されました。

10年前の日本人は、放射性物質のことについて知っていても、生活に直結するという実感はなかったですよね。
それを考慮すると、「みかけは美味しそうに見える食べ物も毒に冒されている」ことや「何十年たっても放射性物質はなくならなず被害者は増えていく」というメッセージを伝えるために、あえてリアリティを追求せずにわかりやすい話にしたのかもしれません。

漫画『文豪の食彩』(原作・壬生篤/作画・本庄敬)を読んだ感想

椅子に座るネコ

たまたま本屋で平積みされていてみつけた『文豪の食彩』。
おじさん向け雑誌で連載しているような雰囲気のグルメ漫画です。
帯に『酒のほそ道』のラズウェル細木氏推薦と書いてありますね。

原作者の壬生篤氏は永井荷風や昭和に関する研究家で、古地図案内などの著書あり。
作画の本庄敬氏は、『蒼太の包丁』という板前修業漫画を長期連載していたようです。


『文豪の食彩』のマンガの内容はというと、若い新聞記者が夏目漱石・正岡子規・樋口一葉・永井荷風・芥川龍之介・太宰治・・・という6人の文学者の食嗜好から、彼らの人生や作品を掘り下げるというものでした。
小説内にでてくる食べ物や、作家自身が好物だった料理とお店については、カラーページやコラムで大きな写真ともにわかりやすい説明がついていて、参考資料としても使えそうです。


文豪の人生と食事についての名著では嵐山光三郎氏の『文人悪食』という本があるので、内容がかぶっていないか心配だったんですが、意外と切り口が違って新鮮な発見が多かったです。
正岡子規に関してはそこまで話の拡がりはないものの、樋口一葉の生きていた時代のカステラについてや、永井荷風が常連にしていたお店での態度など初めて知りました。


料理やお菓子の描き方がヘタなわけではないし楽しく読めるものの、不思議なことに「この料理が食べてみたい!」という気持ちにはほとんどなりませんでした。
マンガでいえば初期の『極道めし』では読んだ後にすぐ食べたくなるし、ドラマの『孤独のグルメ』では翌日だいたい真似して作ってしまうほど共感しやすい性格なんですが・・・。

食べ物のおいしさが主役と言うよりは、作品だったり、文学論的な部分に重きが置かれています。
作家ファンなら読んで損はなさそうですけど、グルメ・料理マンガが好きなだけの人にとっては物足りなく思えそうです。
子規のドヤ顔とか、太宰治と行きつけのウナギ屋の主人とのツーショットというレア写真も載ってますが、なんか太宰は江頭2:50みたいな表情。ほんとにイケメンだったのかなぁという疑惑が生まれてしまった・・・。